引井総男の何か

読書、音楽、写真、散歩などの気ままな記録

2015-04-01から1ヶ月間の記事一覧

気ままな読書録5 中勘助『提婆達多』

シッダールタにデーバダッタという親族があったとは知らなかった。いかなる関係かは明確ではないそうだが、作品中では従兄弟と看做されている。どちらにしろシャカ族の一員で、当時の王族である。 シッダールタは「凡夫は欲望と貪りとに執着しているが、眼あ…

気ままな読書録4 本居宣長「うひ山ふみ」

宣長は神道を「神の道」と考え、「人の道」とは毛頭考えていない。神々の行跡を古事記の神代に関する記述によって跡付けるというのが、彼の学問の目的であり、また方法であった。その結果得られた知見は飽くまで学問的知見であって、民衆の生活規範とは全く…

野の道 どこまでも

春の野山 レンゲ畑と飯盛山

忠臣橋本左内の死

橋本左内と横井小楠とは1850年代において、福井藩という場と松平春嶽と人物を介して重なっている。直接に会い見えたことはなかったようだが、互いに存在を意識してはいただろう(『日本思想大系』55巻に収められている書簡の限りでは、左内のものに小楠に言…

春の土手で見つけた 紅花詰草と紫詰草でしょうか

気ままな読書録3 老いて奮い立つ勇気 トマス・モア

トマス・モアの「ユートピア」を読み終えた。中央公論社『世界の名著』シリーズ第17巻、エラスムスと合巻になっている。 両人とも近代の明けやらぬ16世紀への変わり目に生まれ合わせて、時代の遅れと意図せずして戦わねばならない人生を送った。この巻は…

猫の顔

思うに、猫たちはいつも真剣な顔をしている。ヒトと違う。ヒトは表情豊かだから、真剣な顔もするけど、間抜けな笑い顔も、ドン引きの怒り顏もする。 猫に限った話ではないが、大体において動物たちは真面目な顔だ。大体が不真面目な顔というならまだしも、な…

この国の法観念

御成敗式目(貞永式目)の補注に、ゲルマン法が証人主義だったのに対し、この国の中世法は証文主義だったとあった。文字はヨーロッパ大陸よりも相当遅くに使用され始めたのに、この「東海の島国」では文書に書かれた文字が幅を利かせて来た。 中世の公文書は…

桜花積もる

井上毅の「偉大さ」

生涯については遠山茂樹、大久保利謙、坂本多加雄、羽仁五郎、木野主計、憲政史については稲田正次、坂井雄吉、教育では海後宗臣、山住正己、野口伐名などの錚々たる学者が、井上毅にとりついて研究している。高々51年の人生、そのうちでも官僚として25年ば…

対岸の桜 飯盛山遠望

気ままな読書録2 なつかしの『やちまた』

足立巻一『やちまた』は発表時の1970年代には内容からしてまったく売れなかっただろうことが容易に察せられるが、現在でもどうか怪しい。本居宣長の長男、本居春庭の伝記小説。歴史好き、日本史好きの読者であっても、地味な国語学者の話だから、血湧き肉踊…