引井総男の何か

読書、音楽、写真、散歩などの気ままな記録

2015-01-01から1年間の記事一覧

私説 井上毅伝3 決定的出会い

大学南校退職は、私には意図的だったと思える。その年の終わりに井上毅は司法省に就職するのだ。今度は熊本時習館の先輩である鶴田の紹介と言われる。再就職までの10ヶ月ほど、横浜でフランス語を学習したり、政治経済に関する雑記帳を作成したりして過ごし…

百道浜遠景 靄にかすむドームとタワー

気ままな読書録9 岡本綺堂他『サンカの民を追って』

「山窩小説傑作選」との副題が示す通り、10篇の作品を収録している。作品発表の時期は最も古い小栗風葉『世間師』が1908年、最新が細島喜美『野性の女』の1962年。1920年代のものが3作あり最多だ。この本は今年の3月に出された。どういう関…

アメリカデイゴの花道

猫まどろむ午後

私説 井上毅伝2 離陸前

幕末・維新期の井上が辿った動向は残された史料からしても明確ではない。この人は自身の歴史的な措定に無関心ではなかったから、当時を物語るものがないということは自らも語りたくない過去だと解釈して良いのではないか。とにかく故郷熊本と長崎や横浜との…

私説 井上毅伝1 助走期

江戸時代も終盤に差し掛かる1824年、熊本城下の北東に当たる坪井に井上毅は生まれた。生まれた時に付けられた名は飯田多久馬。22歳の時に養子となって井上家に入る前は生家の飯田姓であり、10代の後半から自ら毅と名乗るようになるまでは多久馬で通した。幼…

夕の風景 白い光の海 能古渡船場

昼の風景 水田に映る逆さ飯盛山

朝の風景 植物の物理

水飲んでるだけだけど、なにか?

初夏の博多湾 その2 沖を往く客船

初夏の博多湾 手前は愛宕浜、向こうは海の中道

気ままな読書録8 ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』2ー2

それでは一体彼らは何にビートされたのか。私はビート・ジェネレーションという時のbeatをずっと音楽のそれと勘違いしていた。作中ではさまざまに訳されているが、原義的には動詞beatの過去分詞形で、つまり「打ちのめされた」ということらしい。このことに…

気ままな読書録7 ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』2−1

ウッドストック・コンサート(1969年8月15日から3日間)のフィルムを見ていたら、ギンズバーグがステージに現れて何やら詩を朗読した。当時の若者である聴衆は、中年に達したギンズバーグの朗読に、ほかのミュージシャンに対してほどは芳しい反応を…

森鴎外 考

岩波版『選集21巻 日記』には「北游日乗」「独逸日記」「小倉日記」「委蛇録」の4編が収録されている。鴎外は1862年(文久2年)生まれだから、最初のが30歳そこそこの頃、次が30歳代半ば、その次が40歳過ぎ、そして最後が亡くなる1922年間近の晩年期の作品…

今日の夕焼け

大瀧詠一「カナリア諸島にて」頌

私の大滝詠一は、この曲を極点として脳裏にこびりついている。Aコードの基調音で、「夏の風」を表現して余りある。アフリカ大陸の西の大西洋上に浮かぶカナリア諸島は強風で有名な島だ。松本隆の詞が先か大滝の曲が先かは知らないけれど、吹き過ぎる熱風が止…

遊び道具

気ままな読書録6 鴨長明『方丈記』

鴨長明はこの随筆を晩年に著している。61歳で亡くなる(1216年没)4年前の57歳時の作だ。生きた時代は丁度平氏が勃興して衰え去ったのと重なる。源頼朝一派の源氏の時代が始まるのも見ていた。 思想的には「永遠なるものはない」という、紀元前のギリシャ哲…

田に水張られ、春が往く

唐津の松浦河畔公園から。左が鏡山、右の遠くに背振の山塊。

春の夕方の港 能古フェリーと「愛車」

気ままな読書録5 中勘助『提婆達多』

シッダールタにデーバダッタという親族があったとは知らなかった。いかなる関係かは明確ではないそうだが、作品中では従兄弟と看做されている。どちらにしろシャカ族の一員で、当時の王族である。 シッダールタは「凡夫は欲望と貪りとに執着しているが、眼あ…

気ままな読書録4 本居宣長「うひ山ふみ」

宣長は神道を「神の道」と考え、「人の道」とは毛頭考えていない。神々の行跡を古事記の神代に関する記述によって跡付けるというのが、彼の学問の目的であり、また方法であった。その結果得られた知見は飽くまで学問的知見であって、民衆の生活規範とは全く…

野の道 どこまでも

春の野山 レンゲ畑と飯盛山

忠臣橋本左内の死

橋本左内と横井小楠とは1850年代において、福井藩という場と松平春嶽と人物を介して重なっている。直接に会い見えたことはなかったようだが、互いに存在を意識してはいただろう(『日本思想大系』55巻に収められている書簡の限りでは、左内のものに小楠に言…

春の土手で見つけた 紅花詰草と紫詰草でしょうか

気ままな読書録3 老いて奮い立つ勇気 トマス・モア

トマス・モアの「ユートピア」を読み終えた。中央公論社『世界の名著』シリーズ第17巻、エラスムスと合巻になっている。 両人とも近代の明けやらぬ16世紀への変わり目に生まれ合わせて、時代の遅れと意図せずして戦わねばならない人生を送った。この巻は…